【徹底解説】犬の関節脱臼とは?脱臼の種類やステージ、治療について

2020/03/31

目次

犬の関節がずれてしまう”脱臼”とは?


走り回ったり、飛び跳ねたり。運動が大好きな犬にとって、日ごろからケガは注意が必要ですね。
なかでも、骨と骨とのつなぎ目である関節に起こるケガ・病気が「脱臼」です。脱臼が起こると骨同士の位置関係がずれてしまい、痛みや見た目の変形、関節を曲げ伸ばしできなくなる、といった症状が出ます。
今回は、犬に最もよく起こる膝蓋骨脱臼について解説していきます。

・膝蓋骨脱臼とは?

膝蓋骨脱臼は、膝(ひざ)のお皿である膝蓋骨(しつがいこつ)が、膝の正面の本来の位置から外れてしまう症状で、犬の後ろあしの跛行(はこう、脚をひきずって歩くこと)の最も一般的な原因となります。オスよりもメスの方が発症するリスクが高く、1.5倍だと言われています。
膝蓋骨は、大腿四頭筋という太ももの強力な筋肉の先端に付随しており、大腿骨(だいたいこつ)にある滑車溝に収まっています。膝関節を曲げ伸ばしすると、膝蓋骨がこの溝に沿ってスライドするような動きをします。
ところが、さまざまな原因によって、膝蓋骨がこの溝を乗り越えて外れてしまうと「脱臼」という状態になり、膝関節の曲げ伸ばしがスムーズに行えなくなります。犬に膝蓋骨脱臼が起こると、運動時に痛みが出たり、膝が突っ張ったような不自然な歩き方をするようになります。また、膝蓋骨が外れたり元に戻ったりしているような状況では関節が外れるような音がする場合もあります

・関節の脱臼の種類

脱臼には、完全に骨と骨との位置関係が完全にずれて元に戻らない状態の「脱臼」と、位置関係がずれてはいるものの、関節面が部分的に接触している「亜脱臼」とがあります。
犬に見られる脱臼は、膝蓋骨脱臼の他に、体の各部位で見られ、顎関節、肩関節、肘関節、手根関節、股関節、膝関節の脛骨、足根関節、尾椎間関節などにおこります。先天性または外傷性が原因で起こります。
膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨が膝の内側にずれる場合、膝の外側にずれる場合、また稀ではありますが両方にずれる場合の3つのパターンが存在します。多くは内側にずれる「内方脱臼」で、小型犬から超大型犬に見られますが、小型犬で最も一般的です。外方脱臼はより大型犬に見られますが、小型犬でも稀に起こります。内方脱臼では、スキップをしているような歩行が見られる事が特徴です。

・膝蓋骨脱臼のステージ分け

膝蓋骨脱臼は、その重症度によって4つのグレードに分類されます。治療は、それぞれのグレードに合った治療法を選択することになります。

POINT
グレードⅠ:通常は膝蓋骨は正常な位置にある。検査者の手で膝蓋骨を押すと脱臼するが、手を離すと自然と元の位置に戻る状態。ときどき跛行することがある。日常生活にはあまり支障がない。
グレードⅡ:通常は膝蓋骨は正常な位置にある。検査者の手で膝蓋骨を押すと脱臼するがし、手を離しても元の位置に戻らない。整復は容易である。ときどき跛行するが、痛みがなく、日常生活に大きな支障がない。
グレードⅢ:常に脱臼している状態で、検査者の手により整復することが可能。足を引きずる、しゃがんだ姿勢で歩くなどの症状が出る。整復してもすぐに再脱臼する。
グレードⅣ:常に脱臼していて、整復することができない。骨の変形があり、痛みを伴う。膝を曲げた状態(カニのような歩き方)で歩いたり、まったく足を使えないこともある。

膝蓋骨脱臼の原因


膝蓋骨脱臼は、生まれつき骨格や体型によっておこる先天的な原因と、交通事故や高所からの転落や転倒など、外傷性のものがあります。ここでは、膝蓋骨脱臼の原因と症状の特徴について詳しく見ていきましょう。

①骨格・体型

膝蓋骨脱臼は、先天的、遺伝的な問題である場合が多く、生まれつき膝関節の周りの筋肉や靭帯、骨格に異常がある場合で、子犬の頃から症状がみられることもあれば、発育に伴って症状が進行する場合もあります。症状が急に現れることもあります。痛みは少ないことが多いです。
先天的におこる膝蓋骨脱臼は、大型犬よりも小型犬で多く見られ、膝蓋骨を支える内側と外側の張力がアンバランスなために生じます。膝蓋骨内方脱臼では、大腿骨の形状と内測の筋群の成長に異常が起こり、内側への張力が過剰になると考えられています。

②外傷によるもの

膝蓋骨脱臼の原因として外傷によっておこるケースも見られます。犬種や年齢に関係なく起こります。交通事故や高所からの転落、転倒などが原因で起こります。非常に大きな負荷がかかり、骨格や関節周囲の筋群、靭帯が損傷を受ける事で膝蓋骨が急に脱臼します。強い痛みがあり、関節が腫れ、足を引きずるなどの症状が現れます。

犬の膝蓋骨脱臼の治療に関して


膝蓋骨脱臼の治療法は、大きく分けて内科的治療(保存療法)と、外科的治療に分かれます。
根本的な治療は外科手術しか方法がありませんが、内科的治療を行うか、外科手術を行うかは、重症度、年齢、犬種、体重、骨の変形の有無などを考慮して選択します。
一般的に症状が軽い場合は内科的治療を行い、症状が重い場合は外科的治療が選択されます。
内科的治療は、保存療法です。疾患と付き合いながら、生活の質を保つ事、また症状の進行を抑え、生涯歩ける膝関節を維持していく事に主眼が置かれます。非ステロイド系鎮痛消炎剤や関節用サプリメントの服用、レーザー治療、膝のストレッチ運動によるリハビリテーションに合わせて、激しい運動の制限や体重制限、生活環境の整備などの生活指導が行われます。
外科的治療は、根本的な構造の異常を手術によって整復し、本来の膝関節の機能に使づける事が目的です。重度な脱臼の状態(グレードがⅢまたはⅣ)である場合、または軽度な脱臼でも症状が強く日常生活に支障を感じる場合には外科的治療が推奨されます。手術の方法には、滑車形成術、脛骨稜(けいこつりょう)形成術、大腿骨矯正骨切(こつきり)術など骨格を形成する方法と、靭帯などの膝関節周囲の軟部組織の張力を調整する方法があります。重症度や骨の変形に応じいくつかの術式を組み合わせ、大腿四頭筋―膝蓋骨-膝蓋靭帯―脛骨粗面を正しい位置へと整復します。すべての膝蓋骨脱臼に対して、単一の方法だけでは対処が出来ないため様々な手法がとられます。術後は適切な安静とリハビリテーションを行います。術後3ヶ月ほどで膝関節は安定化し、運動することができます。
膝蓋骨脱臼は、最初症状が軽くても、成長とともに体重が増加したり、運動によって負荷がかかり続けることによって、症状が悪化していく傾向があります。骨格の変形が進行してしまうと足を使うことが困難になります。また、脱臼と整復を繰り返す場合も、骨同士の摩耗によって軟骨に炎症が起き強い痛みが出る場合があります。さらに長期間の膝蓋骨脱臼を起こしていると、膝の靭帯の断裂を併発しやすくなります。膝蓋骨脱臼は症状が軽くても放置せず、治療を行うことが大切です。

膝蓋骨脱臼の予防方法


先天性の膝蓋骨脱臼は防ぐことはできませんが、外傷性のものは膝に出来るだけ負担をかけない生活をすることで予防が出来ます。また、膝に負担をかけない工夫は、膝蓋骨脱臼の症状の進行を抑えるためにも重要です。最後に、飼い主さんが普段の犬との生活で心掛けるべき、3つの方法を解説します。

①適正体重を保つ

愛犬の体重を適正に保つことは、関節へのストレスを和らげ、膝蓋骨脱臼の予防や進行の抑制につながります。逆に肥満だと、運動時に関節にかかる負荷が増大するため、脱臼を悪化させる原因となります。膝蓋骨脱臼の治療においても適正体重を保つことはとても重要です。

②フローリングはNG

つるつると滑るフローリングの床は、運動時に反力を逃がしてしまい愛犬の関節に負荷をかけてしまいます。フローリングは、膝蓋骨脱臼だけでなく、椎間板ヘルニアなどの他の関節疾患にも良くありません。滑りやすい床にはカーペットやマットを敷くなどの工夫をすると、関節への負担を軽くすることが出来ます。

③関節に負担のかかる運動の制限

急な方向転換、高い位置へのジャンプといった運動は膝関節に大きな負担がかかります。散歩の時には愛犬が急に向きを変えて走り出さないように、飼い主の横について歩く練習をしておくと用でしょう。また、室内ではソファーやベッドなどの家具の上に乗らないようにするか、家具の位置を低くする工夫もケガの予防につながります。飼い主さんに立ち上がってじゃれるような癖もなくすようにしましょう。

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